LOGIN「帰ります」「莉央?」「だって疲れてるんですよね」「そういう意味じゃ……」「大丈夫です」 そう言いながらも声は震えてた。「私、平気なので」「……」「これくらい、何ともないですから」「……」「…………」 あ、言っちゃった。 でも止まらない……。「待つのも、平気です」「莉央」「会えなくても……平気、ですから」 嘘。 全部、嘘。 全然平気じゃない。 だけど、溢れる言葉が止まらない。「……寂しく、ないです」 最後の一言で。 自分が泣きそうなのが分かった。「……」 次の瞬間。 ぐいっと腕を引かれる。「っ!」 気づけば抱きしめられていた。 強く、苦しいくらいに。「ごめん」 悲しい低い声が耳元で響く。「……」「……ごめん」 答えない莉央にもう一度落ちる言の葉。 今度は少し掠れていた。 でも……違う、そうじゃない。 こんなことを言って欲しいんじゃないのに……。「莉央」 抱きしめられる腕に力が入る。「あまりにも平気な顔するから」「……」「気づかなかった」 じわ、っと目頭が熱くなる。 首を横に振るけれど。 気づいてほしかったくせに、気づかれたくなかった。「寂しかったんだ」 ぽつりと慧が言う。「え?」 その言葉に顔を上げる。 慧は困ったように笑っていた。「俺も、すっげぇ会いたかった」 その言葉は反則。「朝からずっと……」 あたたかな額が触れ合う。 欲しかった温もりがそこにある。「早く帰りたくて仕方なかった」 ちゅ、っと優しいキスが落ちる。 額に……頬に、髪に。「寂しい時は言ってくれ」 優しく囁くような声。「我慢しないで欲しい」「……」「恋人なんだから」 止められなかった涙が溢れる。 情けないくらい、嬉しくて。「……慧さん」 久しぶりに名前で呼ぶと慧が目を細めた。「ん?」「……」 黙って両手を広げる莉央。 「抱っこ……してください」 言った瞬間、慧が少し驚く。 でも真っ赤な顔した莉央を見てとても嬉しそうに笑った。 「いくらでも」 そう言って抱き上げる腕はいつもより少しだけ、甘かった。 慧の膝の上で幸せを噛みしめる。「……本当は」「ん?」「寂しかったです」「うん」「平気じゃなかったです」「うん」 慧は黙って莉央
【私の彼氏】 ある日の夜。 慧さんの家のリビングでまったりモード。 今日はお泊りだけど、家の主は私に家事の手伝いをさせてくれない。 夕食も片付けも、全部もてなしてくれる。(ほんと、完璧すぎるんだよね。彼氏だなんてまだ信じられない) 自然と慧さんを目で追う。 さすがにその視線に気がついたのか慧さんがコーヒーを持って隣にやってきた。「さっきからどうした? やけに熱い視線だったけど」「い、いや……だって」「ん?」 普段、かき上げている髪が降ろされているだけでこんなにも胸がときめく。「だって……こんなカッコよくて、完璧で、仕事もできる人が私の彼氏だなんて……今でも信じられないです」「急にどうした」「……片思いしてた時、こんな風になるなんて想像もしてなかったので……」「で? どう? 実際は彼氏になったけど、満足してる?」「そりゃあもう! 満点以上です!!」「ふ……くっくっくっ、それは良かった」 なんだか愛おしさがこみあげて、私は慧さんに抱きついた。「………莉央、そんな可愛いことしてたら、今夜寝かす自信ないんだけど」「え……!」 私の頬を両手ですくった慧さんは、壊れモノを扱うように、優しく甘く、キスをした。Fin◆【慧の嫉妬】 ある日の休日。 莉央は友人に誘われて出かけていた。 その時、たまたま通りかかった場所で、昔の同級生に会ってしまい……。 「なんか大人っぽくなったね」「今彼氏は? 連絡先交換しない?」 なんてことがあった。 もちろん全部断って友人とカフェを楽しんだ。 その話を、何気なく慧に話した瞬間、彼の瞳がすうっと細くなる。「……それ、俺の彼女に言ったって話?」「え、うん?」「莉央が言われたってこと?」「うん、あ……でも大丈夫だよ、ちゃんと断ったし……」「……だめだな」 慧が立ち上がり、莉央を背後から抱きしめる。「他の男に、いい女って感じさせないで」「え、な、なにそれ……?!」「そういう顔、俺の前だけにして」 慧の声は低くて、熱っぽい。 そのまま、首筋に唇が触れる。「……慧さん」「……俺、嫉妬してるんだけど、わかんない?」 そう言って、今度は正面から唇を塞がれる。 キスはいつもより強くて、ちょっと意地悪。 でも……心を全部持っていかれそうなくらい、甘い。「ねえ、……自分
ある日の夕方。 今日は在宅勤務にしておいて本当によかった……。 ベッドの中で丸くなったまま、莉央はうめき声をこぼす。「……いたい……」 お腹も、腰も、頭もなんか重くて、思考もふわふわしてまとまらない。 やる気も出ないし、寂しさがこみ上げてくるのはホルモンのせい? 何もしたくないのに、誰かそばにいてほしいっていう矛盾。 そんなとき。 部屋のチャイムが「ピンポーン」と鳴った。「……誰だろ?」 玄関を開けたそこには。「莉央、大丈夫か?」「慧さん!?」 紙袋を両手に抱えて立っていた慧。 シャツの袖をまくった腕がたくましくて、でもその目は優しい。「調子悪いっていうから、辛いんだろなと思って。顔、真っ青。予想以上だな」「すみません。わざわざ来てくださるなんて……」「とりあえず、横になってな。俺が全部やるから」 慧は迷いなくキッチンへ直行。 抱えていた紙袋の中には……。「わぁ、すごいこんなに? 私が好きなゼリーまで!」「必要そうなもん買ってきた。ほらカイロ」「ありがとうございます」 まるで慣れた手際でお茶を淹れて、スープをあたためる慧。 莉央はぼんやりと毛布にくるまりながら、それを見ていた。「慧さん、すごいですね……」「何がだ?」「すっごく慣れてる感じ」「……あ~、違う、勘違いするなよ。これは妹がしんどい時にやってたんだよ」「え、妹さんがいたんですか!?」「あ、言ってなかったか。ちょうど莉央と同じ年だよ」「へぇ、そうだったんですか。優しいお兄ちゃんなんですね」「莉央にはもっとしてあげたいけど」「……ほんと、やさしすぎて泣きそうです……」 慧がそっと莉央の目尻をぬぐう。 仕草も視線も、すべてが優しくて。「ほら、ちょっと寝てろ。昼は食べたか?」「まだ、です」「そっか。ならちょい待ってろ。作ってくる」「そ、そんな! 申し訳ないです……」「こーら。そんな顔すんな。しんどい日くらい、何も考えずに頼ってくれていい。俺のことも、もっと使って」「そんな……」「お前がしんどいときこそ、俺の出番だって、前にも言っただろ」 莉央の目から、じわっと涙がにじむ。「う、うぅ……こんなときにまで、優しいの……ずるい……」「うん。ずるくてもいいから、莉央が楽になってくれる方を選びたい」 そっと抱き寄せられて、あたたか
「……え?」 会議室のドアを開けた瞬間、思わず固まった。 綺麗な人だった。 長い黒髪。 凛としたスーツ姿。 ヒールの音まで様になっている。 いわゆる、仕事のできる女。 その人は、資料を見ながら慧と話していた。「だから言ったでしょ。あなた詰めが甘いのよ」 「うるさいな」 「相変わらず可愛くないわね」 こんな砕けた話し方をする慧に驚く莉央。 動揺していると、慧がこちらに気づく。「白石。入れ」 「は、はい……」 席につくと、その女性が私を見た。 優しく微笑み軽く会釈までしてくれる。「初めまして、白石さん。九条麗華(くじょうれいか)です」 「し、白石莉央です」 「そんな緊張しなくていいわよ」 ふっと笑う姿まで完璧だった。 しかも。 「昔、黒瀬くんと付き合ってた仲だから」 「…………え?」 小声で呟かれた言葉に心臓が止まるかと思った。 その後の打ち合わせ、正直ほとんど頭に入らなかった。 元カノ。 黒瀬部長の。 しかも、こんな綺麗で仕事できて、大人の女性。 勝てる気がしない。 会議終了後。 「白石、資料まとめ頼む」 「……はい」 返事をしたものの、たぶん顔は死んでいた。 そんな私を見て、九条さんがくすっと笑う。「可愛い子ね」 「え?」 「黒瀬くんが夢中になるの分かるわ」 どくん、と胸が鳴る。「え、あの……」 「安心しなさい。もうとっくに終わった男だから」 さらっと言う。 大人すぎる。「むしろ昔より優しい顔しててびっくりしたわ」 九条さんはちらっと慧を見る。「昔はもっと冷たかったもの」 「余計なこと言うな」 「事実でしょ」 慧が少し面倒そうに眉を寄せる。 どこか入れない空気があるように感じて……。 莉央の胸にトゲが刺さったまま帰り道へ。 駅まで並んで歩きながら、莉央はずっと俯いていた。「莉央」 「……はい」 「元気ないな」 「そんなことないです」 「ある」 即答。 図星すぎて苦しい。 すると慧が立ち止まった。「……嫉妬した?」 低い声。 優しいのに、少し楽しそう。「……してません」 「ほんとに?」 「……だって」 言葉が詰ま
キラキラ輝くイルミネーション。「そろそろ帰るか」「そうですね」 でも慧はまだ手を離してはくれない。「慧さん?」「……やっぱり」 顎をそっと持ち上げられる。「莉央」 甘い声。 慧の指が、髪を耳にかける。 その仕草だけで、くらくらする。「……キスしたい」 低く落ちた声に、息が止まった。「嫌なら止める」 そんなこと言うのは反則だ。 こんな優しい顔されたら。 拒否なんて、できるわけない。 小さく頷くと、慧がふっと笑った。「……ありがと」 その瞬間。 引き寄せられて、唇が重なる。 優しい。 でも、熱い。 触れるだけのキスなのに、心まで溶けそうだった。 離れたあとも、慧は至近距離のまま莉央を見つめる。「はぁ……危な」「え?」「可愛すぎて、このまま帰したくなくなる」「~~っ」 耳元で囁かれて、また鼓動が跳ねる。 なのに慧は困ったみたいに笑った。「でも今日は我慢する」「慧さん」「その代わり……」 腰を抱かれる。 逃がさないみたいに。「次の休み、一日俺にくれ」 独占欲丸出しの声。「……はい」 答えた瞬間、慧が嬉しそうに目を細めた。 その顔を知っているのは……莉央だけ ◆ 帰り道。 少し冷たい夜風の中、慧が繋いだ手を離さないまま歩く。「……今日、すごく楽しかったです」「俺も」「また来たいですね」「うん。また来よう」 少し間が空いて、慧が覗き込んでくる。「次は、泊まりで?」「へ……っ!?!?」「そんな顔するってことは、嫌じゃないんだ?」「ちょっと、もう……ずるいですよ……」 慧がくすっと笑う。 そして、人通りの少ない場所で足を止めて……。 ちゅ……。 そっと、額にキス。「まあ俺は……夜景より、莉央見てる方が好きだけどな」「…………」「だからあんまり景色覚えてない」「そ、それは嘘です……!」「いや、本気」 繋いだ手が熱くて溶けそう。 一緒に過ごす時間はあっという間で。 気付けばもうすぐ莉央のマンション。 次の角を曲がれば……ってところで。「莉央」「はい?」「帰りたくない?」 どくん、と胸が跳ねる。「……っ」 慧がちらりと視線を向けて、少しだけ笑う。「顔に出てる」「……だって……」「ん?」「……今日、すごく楽しかったから」 小さな声
「っ!?!?」「もう、俺が無理」 そのまま、頬に、こめかみに、軽くキスが落ちていく。「俺に仕返しって、大胆になったね。またやる?」「……もうしません……」「ふっ……残念」 くすっと笑って、最後に唇が触れる。 やさしいけど、逃がさないキスに息が乱れる。「……ほんと、かわいい」「……仕返し、失敗です……」「大失敗だったね。でもご褒美はあげる」「ご褒美……?」「ちゃんと仕返ししようとしたのは、褒めてあげないとな」 そう言って、今度はやわらかく抱きしめる。 さっきまでの余裕ない感じとは違う、安心させるような温度。「まぁでも、次からは覚悟してやって」「……努力します……」「じゃないと、こうなる」 もう一度、軽いキス。「全部俺のペースになるから」「……もうなってますけど……」「知ってる」 ……ちゅ。 どこまでも甘くて優しいキス。 こんなご褒美されるなら、やってみて良かったかも……。「あ、ちょ、慧さん……」「ん?」「ここ……玄関、です……」「そうだね。何か問題?」「いや、その……」 キスはしたい。 でもさっきから腰に回された手が背中をなぞる。 探るような手つきがどうにも落ち着かない。「ん……っ」 舌と舌が絡み合う。 唾液音が響く玄関。「け……慧、さんっ……」「んっ……はぁ、なに?」 キスしながらまさぐる手が上へ上へと這い上がる。 後頭部まで到達すると、耳の穴まで撫でられる。「んっ……!」 頭の中で音が反響する。「んんんっ……」 ドンドンっと慧の肩を叩くとようやく解放される。 「っはぁ……」「ご褒美、満足した?」「十分です」「もっと欲しくない?」「お、お腹いっぱいですよ」「俺はまだ足りないんだけど?」 そう言って、ゆっくりと唇を重ねる慧。 そのキスはとびきり優しくて、でもどこか独占欲の強い口づけだった。◆ 待ち合わせは、夜の駅前。 仕事終わりの人波の中、莉央はスマホを握りながらそわそわしていた。 すると……「お待たせ」 低く落ち着いた声。 振り向いた瞬間、黒いコート姿の慧が立っていた。「あ……っ」 思わず息を呑む。 シンプルな格好なのに、背が高くてスーツ姿の余韻が残ってる。 仕事中より少しだけ柔らかい表情。 何もかもがずるい。「なに、その顔」「……か
夜中の1時。 静まり返った部屋の中で、莉央は眠れずにベッドの上でゴロゴロしていた。(……ねむれない)「辛いのか?」 隣で眠っていると思っていた慧が、ふいに目を開ける。「っ、すみません。起こしちゃいましたか?」「いや、起きてた。眠れないのか?」 コクリと頷く莉央を見て、慧は体を起こし彼女の頭をそっと自分の膝にのせた。「じゃ、こっちおいで」「……え?」「眠れない夜は、眠くなるまで甘やかそうって決めてるから」 そう言って、慧は莉央の髪をゆっくり撫でる。「まだしんどいか?」「いえ、大丈夫です。慧さんの看病のおかげです」「そっか。そうだと嬉しい。寝すぎて寝れないか?」「
ある日の昼休み直前。 エレベーターに向かった莉央は、角を曲がった先で慧とばったり会う。「……あっ」「……よかった。会えた」 慧は穏やかに微笑み、エレベーターホールの壁際へ莉央を促す。 ランチタイム直前、廊下は混み合い始めていて、ふたりの距離は自然と近くなる。「あの、誰かに見られたら……」「大丈夫。すぐ混むし、こっちの死角、気づかれにくいから」 そう言って、慧は莉央の手を……そっと、でもしっかりと、握った。「……っ、ここで……?」「ん、ダメ?」 声は低く甘く、耳元に落ちるささやき。 莉央の手を握ったまま、慧の親指がそっと手の甲をなぞる。 さらに指を絡めてきて、その指
退勤後、窓の外は雨。小さな水の音が、静かにオフィス街を包みこんでいた。「莉央、傘ある?」「えっと……ないかも……」 莉央が鞄をあさっていると、慧が迷いなく、持っていた傘を差し出す。「じゃ、入って」 慧の傘は少し小さめ。 自然と、ふたりの距離はぎゅっと近くなる。(うわ……近い……)「ありがとうございます」 雨の音にかき消されるような静けさのなかで、ふたりだけの世界が、そっと始まる。 歩くたび、腕がかすかに触れる。 慧は当たり前のように莉央の方へ傘を傾けて、自分の肩を濡らしながら守ってくれる。「……なぁ」「はい?」 立ち止まった慧が、ふっと莉央の顔をのぞき込む。
目が覚めた時、そこには静かなぬくもりがあった。「……ん……」 ふわふわの毛布に包まれて、隣には、うっすら寝息を立てている慧の姿。 いつもはぴしっとしてる彼の寝顔は、少し無防備で……やっぱり、かっこいい。 昨夜、何度も何度も囁かれた「好き」の言葉。キスをして、抱きしめられて……。(……本当に、寝ただけなのに。ドキドキして寝た気がしない……) それでも、慧の腕の中は安心で心がふわりとほどけたのか、自然と眠ってしまっていた。 そんなことを思っていたら。「……おはよう。百面相か?」 「わ、わっ! 起きてたんですか!」 「ああ」 「っ…………昨日のこと、夢じゃな